電気二重層の電位分布を計算した話 (4)

電流が流れると EDL はどうなる?

<電流が流れることの意味>

  1. 電圧が変化することで過渡的に流れる(非ファラデー電流)。
  2. イオンまたは分子が電極との間で電子のやりとりをする(ファラデー電流)。
ここでは後者で、電流が定常的に流れているものとします。

<できるだけ簡単なモデルで考える>

電流が流れない前のページではA+, B-が溶けている系を考えましたが、 ここではB-が+極で電子を渡した後の生成物Cを考えます。
    B- → C + e-

この逆反応によって B- が生成しますが反応速度が十分遅いものとします。 従ってφはA+とB- の空間分布で決まります。

<電圧を上げると何が起きるか>

(a) 電流がはまだ流れないEDL(前ページの状況)。
(b) 電圧を高くする。- イオンは中性分子に変わったあと離脱する。
(c) 抜けたあとを次のイオンが埋める(拡散)。表面電荷は減る。電荷の相殺が不十分なので電場がEDLの外側に漏れる。

<数式で表すと>

図では+イオンは動かず、−イオンが動いて電流になっています。この状況をフラックス(流束)で表します。

拡散係数 D は同じとします。u±をポアソン方程式に代入します。

<基本方程式>

こうして得られた方程式を、x はデバイ距離でφはVTでそれぞれスケーリングして次の式を得ます。
Q は10-6 程度と見積もられますが結果に大きな影響を与えません。κは電極上の-イオン濃度を表すパラメータで、 κ=1, Q=0 が前ページの Gouy-Chapman モデルです。κ=0が大電流の極限になります(下左の図)。

<電流が流れているときの EDL(η0=20)>

<電圧を上げていくと>

η0=10 では電流が流れないがη0=20 では定常的に電流が流れる場合、下図のような半定性的な図が描けます。

<計算結果が意味すること>

電流が流れないとき(ページ(3)、0.25 V)、電場はEDLで完全に遮蔽されます。電流が流れたのならばEDLは広がり、電場は外に出ますが、強さは
  E=(印加電圧より若干低い電圧)/(電極間距離)
になるでしょう。 ここでは 0.5 V としましたが、もっと高い電圧でも定性的には同じ結果になると思われます。これがめっきや電気泳動における EDL の姿でしょう。

<電子移動の多様性>

ーイオンが抜ける過程のほかにも+イオンが増える過程、あるいは両者が同時に起きる過程がありえますが、 ここでの取り扱いより複雑になるでしょうか。
ここでは定常状態に限定したので常微分方程式を解きましたが、過渡的変化を調べるのなら偏微分方程式を解くという、もっと難しい問題に直面します。

3-13-2020, S. Hayashi