Electrical conduction of saline solution

食塩水の電気抵抗にこだわった話

(2) Resistance does not obey Ohm's law

抵抗はオームの法則に従わない

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<電圧と電流を同時に測る>

右図の装置(というほどのものではありませんが)を組みました。映ってはいませんが電源は 5V DC、バリオームは5kΩです。 これを用いて二種類の実験を行います。

  1. d=40 mm に固定して I-V 関係を調べる。
  2. V を固定して I-d 関係を調べる。
<食塩水の I-V 関係>

0.001 mol/L の食塩水を試料とし、上図の装置でVとIの定常値を測ったところ右図の結果が得られました(d=40 mm)。 直線ではないのでオームOhm の法則は成り立っていません。

5V における接線の傾きは 1/ρ、ρ=980Ω、1.5Vではρ=4kΩです。ρは接合型トランジスタの微分抵抗とよく似ています。

抵抗R=V/I を算出すると、V=1.5ではI=0.06 mAなのでR=25kΩです。この値はテスターで測った前頁の値とオーダーが合います。 一方、V=5ではR=2.2kΩです。この値は独立移動の法則による抵抗値とオーダーが合います。

(注)このようなデータが得られたら、片対数グラフにしていわゆる Tafel プロットとするのが普通です。

<食塩水の I-d 関係>

0.001 mol/L の食塩水を試料とし、d の値を変えながら電流を測って右図の青い曲線が得られました。電圧は左が5V、右が3Vです。 一方、赤い曲線は次式による計算結果です。

二つの抵抗 Rbulkとρは前頁で現れました。V0は印加電圧です。

横軸は d/cm、縦軸は I(mA)。タイトルの括弧の中の数値は計算で用いたρとσ。

<ここまでのまとめ>

この式によってこれまでの実験結果が整理できます。まずR=Rbulk+ρ そのものはテスターで調べられること、Rbulkの値はVに依存しないこと、ρはVが高くなるほど小さくなることに留意します。

  1. 低電圧領域では Rbulk<<ρ なのでRの d依存性は発現しない。
  2. 高電圧領域では Rbulkが優勢なので抵抗の d依存性が発現する。ただしρが無視できるわけではないので ln(d/a) の依存性はぼやける。
ここでいう低電圧はテスター電圧を意味します。極端に低いと Gouy-Chapman型の分極が起きてρ=∞ になります。
<オームの法則は絶対に成り立たないのか?>

オームの法則を成り立たせなくする元凶は ρ、つまり電極界面における電子移動の起きにくさでした。従って ρ を含まない実験をすれば オームの法則が成り立ちます。

「電解質溶液の伝導度測定」の専門家は、 電極の前面に電極を追加する、1kHz程度の交流で測定するなどの工夫をしてRbulkを正確に測っています( 例えば、高橋・天田、電気化学 29(1961)722)。 そうなるともはや素人の手には負えません(笑)。

<Chemical Impedance Spectroscopy, CIS>

交流の周波数を掃引してインピーダンス Z を測りましょう。このとき電気二重層の静電容量 Cdl をρ と平行に入れます。 そうすれば Z の実部に対して虚部をプロットした図は円弧になります。 これを発展させたのがCISです。

11-28-2024, S. Hayashi