Wolfram Topics from University Chemistry

(9) クエン酸-クエン酸塩緩衝液

Citric acid-citrate buffer solution

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<緩衝液とは>

酸性緩衝液の簡単な例は、酸 HX と塩 AX (A=Na, K, etc.)の混合溶液です。X-を共通イオンといいます。AXは100%電離しますが、HXは一部しか電離しません。 もし何らかの理由でH+が増えても、かなりの部分がHXとなって排除されるのでpHの変化はわずかなものとなります。これが緩衝作用です。濃度と解離定数Kが分かれば緩衝液のpHは近似的に計算できます。

ここでは三塩基酸であるクエン酸H3Xについてプロトン濃度[H+]を近似計算せずに求めます。まず平衡を表わす式は

です。これに水の解離定数 Kwが加わります。
<保存則>

X (1価〜3価の負イオン)の保存則は


ここでCaはクエン酸の仕込み濃度、Csは正塩の仕込み濃度です。

次にH+の保存則は



ここでΔCは余剰の(緩衝作用が働く前の)H+(例えばHClに由来)の濃度です。負であればH+が除去されますが、不足すればH2Oからも引き抜かれてOH-が生じます。
<プロトン濃度の方程式>

x=[H+], y=[H3X]とすると次式(5次方程式)が得られます。

<f(x)=0 を解くにあたって>

  • Ca=0 であれば根は正塩のプロトン濃度(<10-7)になります。
  • Cs=0 であれば酸単独になるのでプロトン濃度は 10-7より大きくなります。
  • もし逐次近似的に根を求めるのであれば初期値の選定に注意が必要になります。 参考2(2025)では f(xi)とf(xj)で符号が変わるような区間[xi, xj] を求めてからNewton-Raphson法を適用していますが、完璧ではありません。Mathematicaならどう処理するか見てみましょう。
<Wolfram code (Chemistry_buffer.nb)>

(1) funcHwo という名前で f(x) を定義します。

(2) クエン酸塩が 0.2 mol/L, クエン酸が 0 mol/L のとき(つまり塩のみのとき) 5番目の解から pH=9.728 であることが分かります。ちなみに上記の近似計算でも pH=9.728 でした。

(3) クエン酸塩が 0.2 mol/Lで余剰[H+]が 0 の時, クエン酸を 0〜0.1 mol/L とすると pH がどう変わるかを示しています。

(4) この緩衝液にクエン酸の50%の H+(共通イオンを持たないHCl等)が加わればpHがどれだけ小さくなるかを示しています。pHが変わらなければ緩衝作用は完璧です。

(5) クエン酸塩濃度 cSS とクエン酸濃度 cAA をスライダーで選択して pH を表示させます。

1-9-2025, S. Hayashi